ねことおんな

2004年12月20日 恋愛
猫は飼主なんて要らなかった。

何より自由が好きだった。

自由に唄い、
自由に働き、
自由に眠った。

暑い夏の或る日。

飼主になりたいと
ひとりの女が擦り寄ってきた。

エサだけ頂いて逃げ出そうと企んだが、
そうはいかなかった。

女は自分のものにならなければ
エサはやらないと条件を出した。

猫はエサだけを求めて女のものになった。

エサは美味しく、
いくらでも与えられた。

猫はエサに溺れ、
唄う事も
働く事も辞めてしまった。

女は感情の起伏が激しく、
いつも猫を困らせた。

女は猫の自由が我慢ならず
鍵付きの首輪を着けた。

エサだけを求めていた猫は
嫌気がさして逃げ出そうと考えた。

女は猫の気持ちが手に取るようにわかった。

猫の気持ちが離れようとすると、
大粒の涙をポロリと落とした。

猫を母のように何度も抱いた。

知らぬ間に猫も女から
離れられなくなっていた。

女を見ると触れたくなり、
何もかもがどうでもよくなっていた。

半年が過ぎた頃、
仲間の猫達が反乱を起こした。

「目を覚ませ!
 お前の居場所はそこじゃない。
 この舞台の上なんだ。」

猫は唄うたいだった。

目覚めた猫は唖然とした。

自分が女と戯れている間に
他の猫達は自分よりも
優れた技術を身に付けていた。

そして、何より音楽に対して
真摯的であった。

猫にはお金も無くなっていた。

何もかもを失いかけていた猫は
目覚めてしまった。

「僕はなんて不甲斐ないんだ」

目覚めた猫は狂ったように働いた。

倒れるまで唄い続け、
寝る間も惜しんで曲を書いた。

猫が居なくなった女は
ひとりになった。

心にぽっかり穴が開き、
猫を想い出しては
啜り泣いた。

猫の白い毛並みや
しなやかな身体
潤んだ瞳に
悪戯な声

大粒の涙を落としても
舐めてくれる猫は
もう居ない。

師走の或る日。

引き出しを開けると
首輪の鍵が入っていて、
女は猫にこう言った。

「鍵をあげる。
 首輪を外しなさい。」


猫が言った。


「睦月になったら、
 また着けてよ。」


猫と女の

あたしと彼の人のおはなし

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索